湛水土壌の酸化還元境界層はメタン酸化が活発な環境であり、メタンの大気放出を制御する重要なフィルターとして働いている。研究代表者は、メタン酸化が水田土壌の微生物食物連鎖の基点となることを明らかにしてきた。その一方で、微生物食物連鎖の重要な構成要素である原生動物の多様性についてはほとんど明らかにされていない。本研究では、水田土壌から分離したHeteroloboseaに属するアメーバについて形態観察と分子系統学的解析を行った。培養法によって分離されたメタン酸化細菌を捕食する土壌アメーバ(6_5F株)はmigration法によってさらに純化を進めた後に、位相差顕微鏡下でアメーバ期およびシスト期の細胞の形態観察を行うとともに、シストについては透過電子顕微鏡による内部の観察もあわせて行った。また、18SrRNA遺伝子およびITS-5.8S-ITS2領域の塩基配列を決定し、近縁種との系統関係を明らかにした。形態観察および18S rRNA遺伝子の塩基配列情報より、6_5F株はStachyamoeba属に近縁なHeteroloboseaアメーバと推定された。しかしながら、Stachyamoeba lipophoraの記載論文との比較および保存機関から入手したStachyamoeba ATCC50324株との比較からシストの形態に差異が認められた。また、ATCC50324株で鞭毛期の細胞が観察されたのに対し、6_5F株では鞭毛期の細胞は観察されなかった。さらに、18Sおよび5.8S rRNA遺伝子の塩基配列からみた6_5F株とATCC50324株の近縁関係は、別の属に分類される他のHeteroloboeseaアメーバ間の近縁関係よりも遠いことが示唆された。以上の結果から、6_5F株は新奇のアメーバであると考えられ、Vrihiamoeba italica n.gen.n.sp.として提案した。
|