研究概要 |
ホウ素は植物の微量必須元素のひとつであり,世界の多くの地域で欠乏による農業生産の低下が問題となっている.しかしホウ素欠乏による障害の発生機作は明らかでない.そこでタバコ培養細胞BY-2をモデル実験系として,ホウ素欠乏に対する応答と細胞死発生メカニズムについて検討した. 対数増殖期のタバコ培養細胞BY-2をホウ素欠除培地に移すと,処理後48時間までに半数以上の細胞が死滅した.欠除処理細胞には活性酸素および過酸化脂質が蓄積していた.脂溶性抗酸化物質であるブチルヒドロキシアニソール,トコフェロールを培地に添加すると細胞死は顕著に抑制された.これらの結果はホウ素欠乏による細胞死は直接には酸化障害によってもたらされることを示し,植物の抗酸化活性を高めることで低ホウ素耐性を強化できる可能性を示唆する. ホウ素は細胞壁に局在しペクチン質多糖を架橋する役割を果しているので,ホウ素欠乏は細胞壁構造の異常を介してシグナルを発生することが推測される.このシグナル伝達機構を明らかにするため,ホウ素欠除処理に対する細胞の初期応答について解析し,処理1時間以内にストレス応答性遺伝子の発現量が増加することを見出した.この変化はCaチャネルブロッカーであるLa処理によって抑制されたことから,欠乏応答にCa流入が関与することが示唆された.そこでエクオリン組換え細胞を用いて検討した結果,実際にホウ素欠除処理細胞では対照細胞より多くのCaが流入することを確認した.この変化はホウ素欠除処理後数分以内という極めて短時間で観察されたことから,欠乏シグナルは細胞内プールサイズの変化等ではなく,細胞壁の強度などの物理化学的パラメーターの変化によって生成することが示唆される.
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