研究概要 |
【目的】腐植物質の機能として,カルボキシル基に2価陽イオン(Ca, Mg)が濃縮し,植物根による養分吸収が促進されるが,微量要素の鉄や銅はキレートを形成して,根から吸収されず,植物が鉄欠乏,銅欠乏を引き起こすことを見いだした.従来のモデルでは,鉄キレート生成能は陽イオン吸着能よりはるかに強いため,鉄共存下で2価陽イオンが濃縮するとは考えにくい.腐植酸と鉄がキレート生成する部位が腐植物質の表面全体ではなく偏在し,植物の水耕栽培時に鉄イオンが一定であれば,腐植酸が高濃度になると栽培植物に鉄欠乏が起こることをモデル実験で実証する. 【方法】灰色低地土から腐植物質を抽出し,腐植酸を分別精製してH^<+->腐植酸試料を得,元素分析,官能基分析を行った.腐植酸溶液に各種陽イオンを混合し,クロスフローろ過法で限外ろ過膜を通過する陽イオン量をICPで分析して,腐植酸に対する吸着量の新しい測定法を開発した. 【結果と考察】腐植酸表面にイオン吸着している陽イオン量(Ca, Mg, K, Na)を,クロスフローろ過法で測定した結果,2価陽イオンの吸着量が1価陽イオンより大きいことが確かめられた.植物の水耕栽培時に腐植酸を添加すると,2価陽イオンの吸収促進が確かめられていることから,腐植酸が2価陽イオンの輸送担体として働くことをモデル実験で実証できた.2価鉄-HIDA(ヒドロキシエチルイミノ二酢酸:低分子キレート剤)錯体に腐植酸を添加し,クロスフローろ過法で腐植酸-2価鉄錯体の生成量を測定した結果,この錯体は6配位キレートであることを世界で初めて認め,キレート生成定数は6.8以上であることが明らかとなった.腐植酸濃度が高いほど,錯形成する鉄の量が増加し,植物に吸収されにくいことが確かめられた.
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