本年度は、高等植物におけるセレン(Se)の必須微量元素としての生化学的意義を解明することを最終目的に、研究実施計画に従って主に以下の点について明らかにした。 1. シロイヌナズナの生育に及ぼすSe栄養の影響 硫黄栄養が制限されていない通常のMS培地に種々の濃度のセレン酸ナトリウムを添加して、シロイヌナズナ種子を播種した後、10日目から経時的にシュートと根の新鮮および乾燥重量を測定することにより、植物体の生育に及ぼすSe栄養の影響を評価した。その結果、0.5〜1.0μMセレン酸ナトリウムを添加したMS培地において、シロイヌナズナ実生の新鮮および乾燥重量が1.15〜1.20倍に増加した。このことから、極微量のSeはシロイヌナズナ実生の生育にポジティブに作用することが明らかになった。 2. シロイヌナズナNADH依存グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(NADH-GAPDH)タンパク質へのSeの取り込み機構の解明 1. でSeにより生育の増加傾向が認められた植物体におけるNADH-GAPDH活性は1.4±0.2倍に増加していた。NADH-GAPDHのSeによる活性化が、GSHを介した酵素タンパク質へのSeの取り込みに起因すると仮定し、GSH合成阻害剤のSeによるNADH-GAPDH活性化に及ぼす影響を調べた。約20%までGSH量が低下した植物では、NADH-GAPDHのSeによる活性化は認められなかった。Seにより活性化したNADH-GAPDHと、GSH阻害剤存在下でSeにより活性化しなかったNADH-GAPDHをそれぞれ精製し、質量分析により酵素タンパク質におけるSeの存在を評価した。その結果、Seにより活性化したNADH-GAPDHにはSeが結合しているものの、GSH阻害剤存在下でSeにより活性化しなかったNADH-GAPDHにはSeが存在しないことが判明した。以上、植物細胞におけるGSHを介した酵素タンパク質へのSeの取り込みが初めて明らかになった
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