研究概要 |
黒ボク土下層土の多くには多量の硫酸イオンが吸着されているが,その主たる起源が何なのか,起源の異なる硫酸イオンには,移動性や硝酸イオンなど他種陰イオンの吸着・移動への影響にどのような違いがあるのかは,十分に明らかにされていない。これらの解明を目的として,同一の降下火山灰累積層を母材とする黒ボク土普通畑と茶園(鹿児島県農業開発総合センター大隅支場(鹿屋)普通畑圃場および同茶業部(知覧)茶園),および施肥来歴の異なる黒ボク土野菜畑(農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター(谷和原)畑圃場)を研究対象とし,深さ別の土壌採取を行った(採取深さはそれぞれ3.1,1.8および5mまで)。採取した土壌試料の一部はただちに陰イオンを抽出し,硝酸イオンおよび硫酸イオン含量の分布の概略を求めた。残りの試料は風乾・篩別(<2mm)し,0.01M水酸化ナトリウム溶液(土壌:溶液比=1:100)によって吸着態陰イオンを抽出し,深さ別含量分布を求めた。 これまでに得られた結果によれば,谷和原土壌では施肥来歴によらず,深さ約0.5〜2mにかけて高い吸着態硫酸イオン含量(約50〜180mmolc/kg)が見られた。同土壌の深さ約2〜3mの層は同じく火山灰由来のローム層であるにもかかわらず,吸着態硫酸イオン含量が低く,上方の層に比べて硝酸イオン含量が高い傾向があった。一方,鹿屋・知覧両土壌はともに,陰イオン交換容量の大きいアカホヤ層で吸着態硫酸イオンの集積が見られた。施肥量の多い知覧土壌のアカホヤ層の吸着態硫酸イオン含量は最大で約300mmolc/kgに達し,鹿屋土壌に比べて約2倍ほど高かった。引き続き,各土壌断面内の詳細な吸着態硫酸イオン含量分布,および硫酸イオンの硫黄安定同位体比の分布を求めることにより,吸着態硫酸イオンの起源および施肥の影響を明らかにする予定である。
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