研究概要 |
黒ボク土下層土の多くには多量の硫酸イオンが吸着されているが,その主たる起源が何なのか,起源の異なる硫酸イオンには,移動性や硝酸イオンなど他種陰イオンの吸着・移動への影響にどのような違いがあるのかは明らかにされていない。これらの解明を目的として,同一の降下火山灰累積層を母材とする黒ボク土普通畑(大隅化学肥料区)と茶園(知覧茶園),および施肥来歴の異なる黒ボク土畑圃場(谷和原化学肥料区・無肥料区)を対象として,0.01M水酸化ナトリウム抽出性硫酸イオンおよび他種陰イオンの土壌断面内深さ別含量分布を求めた。 谷和原畑圃場では深さ約2~3mには硫酸イオン含量の低いローム層が分布し,硝酸イオン・塩化物イオンなど吸着力の弱い陰イオンが集積していること,化学肥料施用は土壌断面内上方での硫酸イオン含量の増加と分布域の下方への拡大をもたらし,硝酸イオン・塩化物イオンの集積部位が下方に押し下げられていることが明らかになった。これらの結果は,下部ローム層の硫酸イオンが上方から移動してきたものであることを示唆する。一方,大隅畑圃場の硫酸イオン含量分布は土層の陰イオン吸着特性を強く反映し,アカホヤおよび直上の漸移層で最も高く,ついで埋没腐植層および黒ニガ層で高かった。施肥量の多い知覧茶園では,黒ニガ層,アカホヤ漸移層,アカホヤ層,埋没腐植層を通じて多量の硫酸イオンが集積し(最大で約430mmolc/kg),黒ニガ層・アカホヤ漸移層には硝酸イオンの集積もみられた。また,谷和原・知覧土壌の硫酸イオン含量の高い土層に含まれる硫酸イオンは,蒸留水を継続的に浸透させることにより,ほぼその半分が脱離した。今後,硫酸イオンの硫黄安定同位体比の土壌断面内分布の測定およびカラム・溶出実験等により,吸着態硫酸イオンの起源および起源の異なる硫酸イオンの移動・脱離特性を明らかにする。
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