研究概要 |
黒ボク土下層土の多くには多量の硫酸イオンが吸着されているが,その主たる起源が何なのか,起源の異なる硫酸イオンには,移動性や硝酸イオンなど他種陰イオンの吸着・移動への影響にどのような違いがあるのかは明らかにされていない。これらの解明を目的として,黒ボク土畑圃場(谷和原化学肥料区)および同一の降下火山灰累積層を母材とする黒ボク土普通畑(大隅化学肥料区)・未耕地と茶園(知覧茶園)を対象として,吸着態硫酸イオンの硫黄安定同位体比(δ34S値)を測定した。また,Thin diskを用いた溶出実験および同位体希釈法により,硫酸イオンの脱離特性と交換反応特性を解析した。 いずれの圃場においても,高濃度で集積した硫酸イオンのδ34S値は-0.8%。から+1.8%。の範囲にあり,施用された化学肥料・有機質肥料のδ34S値(-4.8~+1.4%。)に近かった。一方,施肥の影響のない大隅未耕地および硫酸イオン集積量の少ない谷和原深層土(深さ241-250cm)のδ34S値は,それぞれ9.4%。および7.5~11.8%。と高かった。Thin diskを用いた蒸留水の通水による溶出実験では,硫酸イオンが多量に集積した土壌からは吸着態硫酸イオンのほぼ半分が脱離したのに対し,施肥の影響の小さい谷和原深層土では脱離が進みにくく,13%が脱離したに過ぎなかった。また,集積した硫酸イオンは交換反応性が高く,同位体希釈法により求めた"交換"可能な硫酸イオンの含量は,吸着態硫酸イオン含量にほぼ等しかった。 これらの結果は,黒ボク土畑圃場に集積した硫酸イオンが施肥由来であるのに対し,施肥の影響を受ける前から存在した硫酸イオンは海塩性硫酸塩などの風送塩が主たる起源であること,施肥由来の吸着態硫酸イオンは比較的脱離しやすく,土層内での移動性が大きいことを示す。
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