本年度は麹菌の持つ唯一の細胞質型ホスホリパーゼA_2様遺伝子であるAoplaAの生理機能にアプローチするための実験を行った。前年度までにAoPlaAタンパク質がミトコンドリアに局在化することを明らかにした。そこで、麹菌ミトコンドリア膜のリン脂質組成を質量分析により調べた。この実験のため、まず麹菌からミトコンドリアを粗精製するための実験系の構築を行った。ERマーカーであるカルネキシンにEGFPを融合させたタンパク質、液胞マーカーであるCPYにEGFPを融合させたタンパク質、AoPlaAにEGFPを融合させたタンパク質をそれぞれ発現する株を破砕し、遠心分画を行った。各画分について抗EGFP抗体およびミトコンドリアマーカーであるHsp60の抗体を用いたウェスタンブロットを行ったところ、P1と命名した画分にはカルネキシンやCPYのシグナルは認められず、一方でAoPlaAとHsp60のシグナルが検出されたことから、P1がミトコンドリアリッチなフラクションであることが分かった。次にコントロール株、AoplaA高発現株、およびAoplaA破壊株について同様の遠心分画を行い、得られたP1画分に対してMS/MS解析およびLC/MS解析を行い、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、およびカルジオリピン(CL)の分析を行った。その結果、コントロール株に比べ、AoplaA高発現株ではPEが減少していることがわかった。一方、AoplaA破壊株においてはCLの増加が確認された。これらの結果から、AoplaAがPEやCLの代謝に関与する可能性が示唆された。
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