研究概要 |
本研究は、メタン生成古細菌Methanosarcina mazei(メタノサルシナ・マゼイ)のaggregateからsingle cellへの形態変化に関わる細胞壁分解酵素disaggregataseの発現条件を解明し、その機能をメタンの発生抑制とメタン発酵の効率化に活用するための基盤的情報を得ることを目的とする。 disaggregataseの作用によりaggregateからsingle cellとなると、Methanosarcina mazeiの細胞表層は単純タンパク質の薄いSレイヤーだけとなり、浸透圧の低下や界面活性剤などにより容易に溶菌するため、Methanosarcina mazeiの溶菌酵素としてdisaggregataseを用いることができると考えられる。disaggregataseの作用をメタン発生抑制に利用する一つの試みとして,disaggregatase遺伝子を導入した植物を作出した。発現用ベクター(p35S-nos/Hm3)を用いて、イネ(キヌヒカリ)の培養細胞へMethanosarcina mazeiのdisaggregatase遺伝子をアグロバクテリウム法で導入した。個体を分化・再生後、葉からRNAを抽出し、逆転写PCRによりdisaggregatase遺伝子の転写解析を行った。非特異バンドが観察されたものがあったが、いくつかの個体でdisaggregatase遺伝子の全長に相当する断片が得られ、イネでdisaggregatase遺伝子が発現・転写されていることを確認した。タンパク質の発現解析と発現タンパク質におけるdisaggregataseの酵素活性については年度内に解析できなかったが、再生個体より種子が得られたため、種子より生育させた植物体を用いて、今後調査を行っていく予定である。 本研究では、Methanosarcina mazeiの細胞壁分解酵素disaggregataseの活性が安定的に発現される条件を明らかにし、その機能をメタン発生抑制やメタン発酵効率化へ活用するための基盤的情報を得るとともに、disaggregatase遺伝子を発現するイネの作出に成功した。また、disaggregataseの発現とsingle cell化との関係がMethanosarcina mazeiの菌株間で異なることを明らかにし、aggregateからsingle cellへの形態変化のメカニズム解明の端緒を得た。
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