研究概要 |
真核生物の細胞質における翻訳とmRNAの分解は密接に連携しており、その制御はストレス条件下において特に重要である。ストレス条件下で非翻訳状態のmRNAはポリソームから隔離され、翻訳制御因子やRNA分解装置などとともにストレス顆粒(stress granule,SG)やプロセシングボディ(P-body)といった構造体を細胞質に形成する。これらの構造体はストレス条件下での遺伝子発現制御に重要な役割を担っていると考えられている。一方、エタノールストレスに対する酵母の応答機構はまだ不明な点が多い。そこで、エタノールストレス条件下におけるSGとP-bodyの形成について検討を行い、その生理的意義を考察した。解析の結果、SGはP-bodyよりも厳しいエタノールストレス条件下で形成され、さらにその形成はP-body形成後に誘導された。加えて、シクロヘキシミドによってSGの形成は阻害されることや、eIF2αのリン酸化に非依存的であることが明らかとなった。また、熱ショック(46℃)によってもSGの形成は誘導されるが、エタノールによって誘導されるSGと熱ショックによるSGとでは構成因子に違いが存在することを見出した。さらに、SGの形成が抑制される遺伝子破壊株を用いて生理的意義を検討したところ、野生株に比べて遺伝子破壊株はエタノールストレス処理後の生育回復が不十分であった。そのため、SGはエタノールストレスからの回復時に重要な役割を担っていると考えられる。実際の醸造過程におけるSG形成については、清酒小仕込試験および白ワインの醸造試験を行って検討した。
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