Streptococcusに属する化膿性溶血型連鎖球菌は、多糖リアーゼと不飽和グルクロニルヒドロラーゼ(UGL)により宿主細胞外マトリックス(グリコサミノグリカン:GAG)を単糖(アミノ糖とαケト酸)にまで分解し、宿主細胞へ侵入・感染することを示唆してきた。本研究では、連鎖球菌における宿主細胞への侵入・感染機構を明らかにするため、連鎖球菌におけるUGLの発現をDNAマイクロアレイにより解析した。また、UGL遺伝子近傍のゲノム構造から、多糖リアーゼとUGLにより生じる反応産物の代謝経路を考察した。 連鎖球菌(Streptococcus agalactiae)をGAGの一種であるヒアルロン酸存在および非存在下で培養し、各培養菌体における転写レベルをDNAマイクロアレイにより決定した。UGL遺伝子は、ヒアルロン酸存在下で有意に誘導発現していた(2.5倍)。また、UGL遺伝子の下流に位置するアミノ糖輸送に関わるフォスフォタランスフェラーゼ系(PTS)ホモログの発現もヒアルロン酸により促進されていた。UGL遺伝子の上流にもヒアルロン酸により誘導発現する遺伝子クラスターの存在が見出された。このクラスターには、αケトグルコン酸(KDG)の代謝に関わる3種類の酵素(還元酵素、キナーゼ、アルドラーゼ)のホモログ遺伝子がコードされている。UGL遺伝子の近傍におけるPTS系やKDG代謝系遺伝子がGAGにより転写誘導を受けるクラスターを構成することから、連鎖球菌は多糖リアーゼとUGLによる反応産物をPTS系で細胞内に取り込み、かつKDG代謝系で資化することが考えられた。
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