新規の標的と作用機序を持つ選択性の高い抗真菌剤の開発が久しく待望されている。アトヴァコンとアスコフラノンの併用が、ミトコンドリアを中心とする病原性真菌のエネルギー代謝に致死的影響を与えて強力な増殖阻害を引き起こすことを、既に確認した。本研究において、真菌類のエネルギー代謝の中心を成すミトコンドリア内膜の呼吸鎖電子伝達系を特異的な標的とする抗真菌剤の実用化の基盤を確立するために、詳細な検討を加えた。 病原性真菌のシアン耐性呼吸を担うalternative oxidase核遺伝子破壊株のエネルギー代謝や酸化ストレス抵抗性を調べることにより、alternative oxidaseの生理的役割、さらに抗生物質アスコフラノンの電子伝達阻害や増殖阻害のメカニズムが明らかになると考えた。真菌症の主要な原因菌が属するカンジダ属の酵母Candida albicans 及びCandida maltosa のalternative oxidase核遺伝子破壊株を作成してあるので、野生株との比較を追究した。 これまでの研究経過と実績から、シアン感受性呼吸を阻害するアトヴァコンとシアン耐性呼吸を阻害するアスコフラノンの併用によるミトコンドリアの呼吸阻害による増殖阻害は、高い成功確率でin vivo系に応用できるものと予想している。In vitroの種々の条件下で、病原性真菌の増殖に対するアトヴァコンとアスコフラノンの併用効果を調べた。現在真菌症治療の臨床で頻用されている抗真菌剤、すなわちアゾール系抗真菌剤、アムホテリシンB、ミカファンギンとの効果の比較、同時添加による薬物間相互作用なども検討した。
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