90℃以上で生育する超好熱菌は、分子系統学的に原始生命に最も近い現存生物である。本研究ではThermococcus kodakaraensisをモデル生物として、菌が活発に増殖する対数増殖期と増殖が衰え休眠状態に至る定常期にどのような変化がみられるかに注目し、形態と膜脂質の変動、遺伝子の発現動態、細胞のもつ翻訳活性について集中的に研究を行った。細胞の形態変化を観察したところ、定常期に入ると鞭毛が減少し、細胞も小型化していることが確認された。膜脂質成分を調べたところ、定常期になるにつれて炭化水素鎖の長いカルドアーケオール型脂質の割合が高まった。遺伝子の発現動態を調べたところ、増殖時期に特異的に発現する転写因子の存在が示された。特に定常期に特異的に発現する転写因子については、恒常性維持と密接な関係があると予測している。次に細胞の持つ翻訳活性を検討するために、それぞれの時期から無細胞抽出液(S30画分)を分取し、翻訳活性を検討した。翻訳活性は対数増殖期のものにのみ認められた。さらにそれを細胞質画分(S100)とリボソームに分け、組み合わせて活性を検証したところ、対数増殖期のリボソームを含む場合にのみ活性が認められた。リボソームの活性が細胞のもつ生理活性に関与していると考察された。また時期特異的に発現しているものの中に、分子シャペロニンも見出された。シャペロニンもタンパク質レベルで恒常性維持を支えていると考えられる。いくつかの超好熱菌において多価ポリアミンが高温での生育に重要であることが報告されているが、本菌においても生育温度に依存した多価ポリアミンの合成が確認された。特にポリアミン合成の起点となるアルギニン脱炭酸酵素は生育に必須であることが遺伝子の破壊実験により示された。しかし、細胞の増殖段階における発現量変動はみられなかった。
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