超好熱菌は90℃以上で生育する微生物の総称で、分子系統学的に原始生命に最も近い現存生物と位置づけられている。本研究では超好熱菌Thermococcus kodakaraensisの環境順化に注目し、栄養源の枯渇と温度ストレスに細胞がどのように適応しているかについて、特に長鎖ポリアミンの生合成変化、リボソームの超分子構造変化、シャペロニン分子の挙動に注目し、それらが恒常性維持にどのように関与しているかを明らかにすることを目的とした。ポリアミン生合成系については初期酵素であるアルギニン脱炭酸酵素TK0149の生育必須性が明らかになった。またアデノシルメチルプロピルアミンを合成するTK1592は、高温(93℃)で高発現し、アミノプロピル基供与に中心的な役割を果たしている。その誘導は転写レベルでなされ、プロモーター上流領域が制御のシスエレメントとして機能していることが明らかになった。この領域には既知の熱ショック応答性遺伝子の保存配列は存在せず、あたらしい制御機構の存在が示唆される。長鎖化のメカニズムは不明であったが、破壊株の細胞内ポリアミンを分析することにより新規のアミノプロピル基転移酵素が存在することが判明した。特に高温で分取したポリアミン(アミノプロピルスペルミン)には胞翻活性を促進する効果がみられた。これらポリアミンはリボソームの超分子構造に影響を与えなかった。シャペロニンに関しては低温及び高温で特異的に誘導される分子シャペロニンCpkAとCpkBの標的タンパク質をカタログ化した。両標的の分子量分布に違いは認められないが、疎水度と塩基性度に違いがみられた。CpkAが特異的に捕捉している標的の中でTrpCタンパク質に注目し、CpkAとの作用機序をin vitroで検証した。CpkAはTrpCの部分変性した状態を認識し、再生していることが明らかになった。
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