我々は、植物油などの天然油脂を基質としたとき、希少な不飽和脂肪酸および希少な不飽和脂肪族アルコールをワックス(脂肪酸と脂肪族アルコールのモノエステル体)として菌体内に蓄積する微生物を保持している。この微生物が生産するワックスは、原料とする植物油を構成する脂肪酸よりも鎖長が偶数個短くなった不飽和脂肪酸および不飽和脂肪族アルコールを豊富に含んでいた。これらの物質は天然にはあまり存在せず、かつ化学法による合成も困難であることから、本微生物は、植物油を希少不飽和脂肪酸および希少不飽和脂肪族アルコールへ変換する方法(微生物変換)として有用である。 本年度の研究では、菜種油を基質としたときの微生物の培養条件の検討を行った。その結果、培養の最適条件は以下のようであることが分かった。本微生物をNB液体培地(1%魚肉エキス、2%ペプトン、0.1%塩化ナトリウム、pH7.0)を含む培地に植菌し、27℃で1晩、振とうしながら培養する。さらに培地容量に対して5%の菜種油を添加し、27℃で振とうしながら培養を継続する。この培養条件の時、培養4日目で菌体内に蓄積されるワックスの量は最大となり、培養液1mLあたり8mgに達することが分かった。また、培養液中に残存する菜種油がほぼなくなる培養5日目以降に、鎖長の短くなった希少不飽和脂肪酸含量が急激に高まることも分かった。以上のように、菜種油を基質としたとき、本微生物による希少不飽和脂肪酸および希少不飽和脂肪族アルコールの効率の良い生産条件の確立に成功した。
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