我々は、植物油などの天然油脂を基質としたとき、希少な不飽和脂肪酸および希少な不飽和脂肪族アルコールをワックス(脂肪酸と脂肪族アルコールのモノエステル体)として菌体内に蓄積する微生物を保持している。この微生物が生産するワックスは、原料とする植物油を構成する脂肪酸よりも鎖長が偶数個短くなった不飽和脂肪酸および不飽和脂肪族アルコールを豊富に含んでいた。これらの物質は天然にはあまり存在せず、かつ化学法による合成も困難(特に不飽和脂肪族アルコールは困難)であることから、本微生物は、植物油を希少不飽和脂肪酸および希少不飽和脂肪族アルコールへ変換する方法(微生物変換)として有用である。 本年度の研究では、菜種油を基質として生産されたワックスを構成する不飽和脂肪酸および不飽和脂肪族アルコールの組成をGCで、それらの構造をGC-MSで調べた。その結果、原料の菜種油中にはオレイン酸(cis9-C18:1)が62.4wt%含まれていたのに対して、生産されたワックスを構成する脂肪酸画分中には、オレイン酸が23.80wt%に減少し、これに代わって9-C18:1の脂肪酸のカルボキシル末端側から2および4個の炭素が減少した7-C16:1の脂肪酸および5-C14:1の脂肪酸がそれぞれ28.1wt%、および8.0wt%含まれていた。一方、ワックスを構成する脂肪族アルコール画分中には、7-C16:1の脂肪族アルコールおよび5-C14:1の脂肪族アルコールがそれぞれ32.4wt%、および4.6wt%含まれていた。これらの物質はいずれも天然油脂中には殆ど存在しない希少な物質であった。
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