細胞は生命活動における様々な局面でその形態を変化させる。この変化は細胞膜と細胞骨格の統合的制御によってもたらされるが、その分子機構は必ずしも明らかではない。本研究では細胞膜とアクチンの統合的制御に関与すると考えられるタンパク質、SWAP-70に着目し、その関与の分子機構の解明を目指すものである。 今年度は、前年度SWAP-70との結合が示唆された膜タンパク質インテグリンβ1との機能的関連性に迫った。SWAP-70の発現抑制細胞は野生型細胞に比較して細胞-基質間接着能の低下を示したため、この現象へのインテグリンβ1の関与を調べた。インテグリンβ1の活性化抗体をSWAP-70発現抑制細胞に作用させたところ、接着能の回復が観察された。この結果は、SWAP-70がインテグリンβ1との結合を通じてインテグリンβ1の活性化をもたらすことで細胞-基質間接着能に影響を与える可能性を示唆している。今後SWAP-70のインテグリンβ1活性制御における役割をさらに検討することで膜骨格制御を通じた細胞接着の新たな分子機構が明らかになることが期待される。 また、SWAP-70のアクチン結合能が細胞癌化に果たす影響についても知見を得た。野生型SWAP-70は刺激時にのみアクチン結合能を示す。今回、刺激の有無に関わらず恒常的にアクチンに結合する点変異体SWAP-70を見出したため、その機能解析を行った。この変異体をマウス繊維芽細胞に発現させると、野生型細胞と異なり、形質転換細胞様形態、増殖速度増加、接触抑制といった癌化細胞にみられる様々な表現型を示した。つまり、SWAP-70はそのアクチン結合能を通じて細胞癌化に役割を果たしていることが示唆される。
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