アネトールは出芽酵母ミトコンドリアにおいて電子伝達を阻害し、活性酸素を産生誘導させ、内膜の電位差を消失させ、ミトコンドリア内外でのアデニンヌクレオチドの輸送を阻害し、本酵母の細胞死を誘導することがすでに明らかになっている。アネトールの一次作用点を特定するために、種々の抗酸化剤で本酵母を前処理した結果、α-トコフェロール(TOH)にアネトールによる細胞死を抑制する作用が認められた。加えて、 TOHは活性酸素の産生誘導をほぼ完全に抑制し、内膜の電位差を回復させ、さらにアデニンヌクレオチドの輸送阻害をも解消させた。しかしながら、 TOHはアネトールによる呼吸阻害作用を打ち消すことができなかった。以上の結果から、アネトールの一次作用点は単なる電子伝達阻害に起因する呼吸阻害作用によるのではなく、ミトコンドリア内外でのアデニンヌクレオチドの輸送阻害である可能性が高いと予測された。アデニンヌクレオチドの輸送はミトコンドリア内膜に埋め込まれているアデニンヌクレオチドトランスロケーターが担っており、そのようなポンプ類の機能が停止した場合、ミトコンドリア内膜における電位差、すなわちイオン勾配が消失する可能性が指摘された。活性酸素種の産生は通常、電子伝達鎖の複合体IおよびIIIの阻害に起因することが多いが、アネトールによる活性酸素種の産生誘導はTOHを用いた実験から電子伝達阻害とは関係ないことがわかった。活性酸素種の産生誘導が細胞死に直接関連しているかどうかは次年度以降に解決すべき課題として残された。
|