研究概要 |
フルオラスとは,フッ素原子の特性を利用したケミストリーに用いられる言葉で「含フッ素化合物」と「フッ素を含まない化合物」の分子間相互作用に基づくケミストリーにおいて頻繁に使用されるキーワードである。 我々はこのフルオラス性を利用した有機反応プロセスの簡略化を目的として「生理活性ペプチドの液相コンビナトリアル合成」に関して研究を展開し,今年度は以下の成果を得た。 1.フルオラス液相コンビナトリアル合成で必要となる3種類のフルオラスアミノ酸保護試薬(f-FMOC試薬)の合成を行った。次にこれらを用いてフッ素含量の異なる単純なジペブチド保護体の合成を行い,フルオラスカラムを接続した高速液体クロマトグラフィーにより液相コンビナトリアル合成の可能性を調べた。その結果,作業仮説通り異なるフルオラスタグ保護体で保持時間に顕著な差が認められた。この結果は様々なフッ素含量のフルオラスFMOC試薬をアミノ酸保護試薬として用いれば,多様なペプチド類のエンコード化された液相ミクスチャー合成が可能であることを示唆している。現在,不斉点の絶対立体配置が全て異なる生理活性ペプチド立体異性体を一挙に合成するモデルシステムを検証している段階である。 2.ミディアムフルオラスタグの特性を利用する向山縮合剤を合成した。本試薬は,反応前にはライトフルオラス試薬として振る舞うが,反応後には一転してヘビーフルオラス試薬として振る舞う新しい縮合剤である。この特性を利用し,反応終了後に少量の水を系内に添加するだけで目的生成物と試薬由来副生成物を簡便に分離できる縮合反応システムを達成し,本試薬がペプチド結合形成反応に効率よく応用できることを明らかにした。
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