トリプトファン・ナイアシン代謝の鍵酵素アミノカルポキシムコン酸セミアルデヒド脱炭酸酵素(ACMSDと略す)は神経毒キノリン酸の産生に大きく関わる酵素のひとつである。ACMSDはL-トリプトファンの代謝産物をグルタル酸経路に導き、NAD経路への流入を減らすことによりキノリン酸をはじめとするL-トリプトファン由来の生理活性物質の生成に影響を及ぼす。その活性変動には疾病、ホルモン、栄養条件などが関与する。本研究ではキノリン酸およびピコリン酸などの他のL-トリプトファン代謝産物の生成とACMSDの関係と、細胞内外におけるキノリン酸の動態を調べることを目的とした。ACMSD活性を高めたストレプトゾトシン(STZ)誘発インスリン依存性糖尿病ラットの初代培養肝細胞を用いて、細胞の内外におけるラベルしたトリプトファンの代謝産物の動態を調べた。その結果、STZ糖尿病ラットの肝細胞でACMSDの発現が著しく上昇しているにも関わらず、NADの前駆物質であるキノリン酸が細胞外へ大量に放出されることを示した。ニコチンアミドの生成は細胞内外において微量であり、大量に生じたキノリン酸はキノリン酸の分解酵素QPRTの作用を受けずに速やかに細胞外へ放出された。この結果から細胞内におけるキノリン酸を細胞外へ排出させる機構の存在が示唆された。一方、性ホルモン、デヒドロイソアンドロステロンをラットに経口投与したところ、ACMSDの活性とmRNAを抑制し、キノリン酸の産生を増加させることを示した。また、正常ラットの初代培養肝細胞の培養液にデヒドロイソアンドロステロンを添加した実験でも同様の傾向がみらることを示した。
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