大腸をはじめとする多くの組織における発がんリスクの上昇が肥満と関連しており、肥満モデルマウスを用いた研究によっていくつかの肥満関連因子の関与が示唆されている。しかしながら、非肥満状態の大腸発がん過程に寄与する肥満関連因子を解析した例はこれまでにない。そこで本研究では、化学発がん剤処理時に変動する肥満関連因子の探索を行うことを目的とした。まず、野生型ICRマウスを用いた大腸化学発がんモデルにおける血中アディポサイトカイン濃度の推移と、その変動メカニズムについて検討した。発がんイニシエーターであるazoxymethane (AOM)および発がんプロモーターであるdextran sulfate sodium(DSS)を投与することで、20週という短期間で大腸腺がんを形成させた。実験開始20週後の血中レプチン濃度を測定したところ、AOMおよびDSS処理群では無処理群に比べ約3倍に上昇していた。一方、その他のアディポサイトカインであるTNF-α、IL-6およびアディポネクチンに有意な変化は認められなかった。レプチンは、主に白色脂肪組織で産生されることが知られていることから、内臓脂肪に注目したところ、腸間膜脂肪および精巣上体周囲脂肪量の増加が観察された。特に顕著な増加が見られた精巣上体周囲脂肪ではレプチンmRNAおよびタンパクの発現が上昇していた。さらに、レプチン産生の主要な制御機構の1つであるインスリンシグナル経路の活性化および血中インスリンとIGF-1濃度の上昇が認められた。以上のことから、本モデルにおける血中レプチン濃度の上昇は、内臓脂肪重量の増加および同組織におけるインスリンシグナル経路の活性化に起因しており、大腸がんの発生に寄与していると推察される。
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