研究概要 |
ヒトを含む哺乳動物のビタミンB_<12>(B_<12>)の生理機能やB_<12>欠乏症の発症メカニズムの解明にはラット等の実験小動物が広く用いられてきたが,未だB_<12>欠乏性代謝異常症の詳細な発症メカニズムについて不明な点が多く残されている.そこで,個体発生機構・全ゲノム情報・ヒトの疾患遺伝子と相同性の高い遺伝子群の存在など生命機能の情報が豊富で,ヒトのモデル生物として広く用いられている線虫(Caenorhabditis elegans)を用いたB_<12>欠乏症モデル動物の調製法を確立し,食餌性B_<12>欠乏が線虫の脂質およびアミノ酸代謝に及ぼす影響を検討した.その結果,B_<12>欠乏線虫の産卵数はコントロール線虫に比べ著しく減少し,生育の遅延が観察された.またB_<12>欠乏の指標である細胞内メチルマロン酸量が顕著に上昇し,B12依存酵素メチルマロニルCoAムターゼ(MCM)とメチオニンシンターゼ(MS)活性が著しく減少した.B_<12>欠乏条件下において形態異常の線虫が約16%の頻度で観察され,著しい運動機能障害を呈していた.このB_<12>欠乏線虫は総脂質ならびにリン脂質や中性脂肪量がコントロール線虫に比べ顕著に増加していたが,奇数鎖脂肪酸の蓄積は認められなかった.一方,B_<12>欠乏線虫でリン脂質のPE/PC比が6倍以上に上昇し,生体内メチル化反応の指標であるSAM/SAH比は顕著に減少していた.B_<12>欠乏線虫では,MS活性の低下から生体内メチオニンが減少し,ホモシステイン・シスタチオニンが顕著に増加していた.またMCM活性の低下からスレオニン・バリン・ロイシン・イソロイシンが有意な増加を示した.さらに神経機能に関与するポリアミンの前駆体であるオルニチンが顕著な増加を示したことから,上述の運動機能障害との関連性が示唆された.
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