メタボリックシンドロームに種々の細胞のNADPH oxidase(Nox)によって生成されるスーパーオキサイドなどの活性酸素が関与していることが推定されており、Nox活性を抑制する食品成分を摂取することによって、メタボリックシンドローム発症のリスクを低減することができると考えられる。本年度の研究では、正常ラット繊維芽細胞3Y1および3Y1細胞を活性化変異したras遺伝子v-Ha-rasで形質転換したHR-3Y1-2細胞における細胞内活性酸素量を測定した結果、HR-3Y1-2細胞の方が高く、Nox阻害剤であるDiphenyleneiodonium Chloride(DPI)およびリポ酸(LA)がHR-3Y1-2細胞選択的に細胞内活性酸素量を低下させることを明らかにした。次にこれらのNox阻害剤が、これらの細胞のフィブロネクチンに対する接着能と細胞接着因子であるインテグリンの発現に対する影響を調べた結果、DPIおよびLAがHR-3Y1-2細胞選択的に細胞接着能とインテグリンの発現量を低下させることを明らかにした。これらの結果は、Nox活性を制御することによってがん細胞の接着や転移を抑制できることを示唆するものである。一方、インテグリンは、慢性炎症の鍵因子として注目されているアンジオポエチン様因子2(ANGPTL2)の受容体であることが知られている。ANGPTL2は肥満時に発現量と分泌量が増え、脂肪細胞由来のANGPTL2は脂肪細胞の炎症を惹起し、結果として全身のインスリン抵抗性を引き起こすことが明らかにされている。Nox阻害剤がANGPTL2の受容体であるインテグリンの発現量を低下させることを明らかにした本研究の成果は、Nox活性を制御することによってインスリン抵抗性などのメタボリックシンドロームを予防できる可能性を強く示唆するものである。
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