これまでの研究において、シイタケフレーバー成分である環状硫黄化合物のレンチオニンが、in vitroにおいても、経口摂取後の採血によるex vivoにおいても血小板凝集を抑制することを明らかにしている。また、種々の惹起物質を用いた実験から、レンチオニンの作用部位が、アラキドン酸カスケード内のシクロオキシゲナーゼを阻害するニンニクフレーバー成分のスルフィド類や薬剤のアスピリンとは異なり、血小板内でのタンパク質のリン酸化以降であることも示唆している。そこで本年度は、レンチオニンが血小板の形態変化および接着に及ぼす影響について検討した。血小板は、惹起物質の刺激により活性化すると、形態変化を起こし、細胞内のフィブリノーゲン、フォン・ウィルブランド因子、P-セレクチンなどを貯蔵しているα顆粒細胞表面に移動し、内容物が放出される。さらに、インテグリンα_<IIb>β_3が活性化し、フィブリノーゲンやフォン・ウィルブランド因子を介して、血小板同士を接着させる。そこで、細胞表面のP-セレクチンと結合する抗体(CD62P)、活性化したインテグリンα_<IIb>β_3と結合する抗体(PAC-1)を用い、ADPおよびトロンボキサンA2の安定アナログであるU-46619を惹起物質として、レンチオニン添加および無添加の場合の形態変化とインテグリンα_<IIb>β_3の活性化の有無について調べた。その結果、血小板にレンチオニンを添加した場合は、ADPで惹起してもトロンボキサンA2で惹起しても、レンチオニン無添加の場合に比べ、抗P-セレクチン抗体との結合も、抗活性化インテグリンα_<IIb>β_3抗体との結合も、著しく低下した。これらのことから、レンチオニンは、タンパク質のリン酸化以降、血小板の形態変化以前の部位を阻害していることが示唆された。
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