多くの木本植物は新たな生育地での発芽定着の際に、その根系で相性の良い共生菌と巡り会い、菌根共生を確立できるか否かが、以後の健全な生育の重要な鍵となる。本研究では、海岸砂丘で未だに樹木の生育がみられない場所において、どのように共生菌類が侵入し、その後樹木と共生関係を成立しているのかを明らかにする。22年度は、共生菌感染源の移動経路推定の手がかりとするため、共生菌の作るきのこ発生地からの距離の異なる場所3箇所で、宿主樹木と共生せずに土壌中に存在する共生菌の量・質の違いを調査し比較した。その結果、きのこの発生地から距離が遠くなると、当調査地域での優占菌であることが示されているショウロ属菌を中心にして、土壌からの出現数が減少することが示された。また、シカの糞の調査と、ネズミのトラップによる捕獲と糞の採取調査を、継続して行った。その結果、シカの糞に関しては、様々な可食性のきのこを中心とした菌が検出され、本年度はこれまで出現しなかった優占菌のショウロ属菌も一部で検出された。これまでのシカの糞からの菌の検出頻度は、全87サンプル中の17サンプルから6種の共生菌が検出されたことになる。一方、ネズミの糞に関しては、本年度の捕獲個体より採取した糞からは樹木の共生菌を検出することは出来なかったが、昨年度分とあわせると約27%の頻度で、優占菌のショウロ属菌のみが検出された。以上から、樹木の共生菌の感染源運搬に、シカとネズミの存在が関わっていること、特にシカは広範な菌の種の運搬に、またネズミは、優占的なショウロ属菌の感染源運搬に多く関わっている可能性が示された。きのこを捕食する野生哺乳類による共生菌の感染源の運搬が、海岸部の森林形成に大きな役割を果たしている可能性が高いと言えるだろう。
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