森林所有者の高齢化や不在村地主化の進行によって、森林所有者の境界線が確定していない民有林の地籍調査が急務となっている。森林の境界線測量におけるGPSの役割に期待が高まっているが、GPSを森林内で使うと樹冠の影響を受けるなどして測位精度が劣化することが知られている。そこで、本研究ではアンテナポールを用いたGPS測位やMTSAT(運輸多目的衛星)の利用によって、森林内で高精度な測位を行う可能性について調査を行っている。島根県松江市の楽山公園にある常緑広葉樹を主体とした森林で高感度GPSを用いた測位試験を行った結果、樹木密度が高く開空度の低い森林内ではMTSATを捕捉することはできなかった。樹木密度が低く開空度の高い森林内ではMTSATを捕捉することができたが、捕捉率は59.4%しかなく、樹木のある環境ではMTSATの利用が困難であることが示された。GPS測位の精度は開空度の高い森林内において、単独測位では4.4m(精密度)、3.5m(正確度)であったが、MTSATを捕捉した3.6m(精密度)、3.0m(正確度)と改善がみられた。しかし、改善の度合いは1m以内であり、MTSATの効果は限定的であることがわかった。通常のディファレンシャル補正を行うことで、GPS測位の精度は2.6m(精密度)、1.6m(正確度)と改善がみられた。魚眼レンズを用いて林冠の開空度を測定して分析を行った結果、開空度とGPSの測位精度の間には単独測位、MTSAT、ディファレンシャル補正のいずれの場合でも、開空度が大きく影響することが示された。GPS用のアンテナポールを使うことによって開空度が大きくなることから、MTSATの利用率が向上し測位精度の向上にもつながることがわかった。
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