マングローブの耐塩性機構は一様ではなく、進化の過程で獲得した様々なメカニズムが関与する複合的事象と想定できる。これはとりもなおさず実用化のためにはあらゆる可能性を想定した総体的な機構解明が重要であることを指摘している。本研究はマングローブの耐塩性形質の発現機構を脂質成分(テルペノイド)濃度の側面から解析することにより新たな耐塩性機構を見いだし、塩ストレス耐性作物の創生ひいては食糧増産等に寄与できる基礎知見を得ることを目的とする。 本年度はまずテルペノイド合成遺伝子の発現調節を制御するプロモーター領域の特定を試みた。すなわち、オヒルギ根からDNAを調整し、TAIL法によりテルペノイド合成遺伝子上流のDNA断片を増幅し、データベース(PLACE)との照合によりプロモーター領域の同定を試みた。約500-600bpのDNA断片をTAIL法により獲得できたが、いずれの場合にもプロモーター配列の同定には至らなかった。今後は上流域遺伝子の取得法をゲノムウォーキング法へと切り替える予定である。 プロモーター解析と併せて、塩ストレス負荷により誘導される遺伝子群の解析を行った。その結果、10カテゴリーに分類される48種類の遺伝子が塩ストレスにより誘導されていたことが明らかになった。各カテゴリーから選択した13種の遺伝子についてはリアルタイムPCRにより塩ストレスによる発現上昇を再確認した。そのうち、2つの転写因子といくつかのイソプレノイド代謝遺伝子が初めてマングローブの塩ストレス耐性遺伝子として同定された。 最後に、トリテルペノイドの塩ストレス耐性機能について酵母を用いて検証した。トリテルペノイド合成遺伝子を導入した酵母の増殖速度は塩負荷条件下でコントロールよりも高く、トリテルペノイドが酵母に体塩性形質を賦与することが初めて確認された。
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