本研究では、沖縄県八重山諸島の西表島をフィールド拠点とし、湛水ストレスに対するマングローブの形態的適応の特徴である気根形成以前の実生段階において、どのような生理的適応機構で湛水ストレスに耐えているのかを明らかにすると同時に、その生理的適応能力の差とマングローブ生態系内での生態的地位決定との関係を明らかにすることを目的としている。汽水域に分布するマングローブ樹木の湛水状態を把握するために、研究分担者・馬場教授協力の下、マングローブ林に複数のプロットを設置し、フィールドに固定したデジタルカメラでインターバル定点撮影を行い、マングローブ実生が潮汐により湛水する状況を画像データとして取得した。得られた画像から実生成長と湛水時間を定量化し、水環境の変化と樹種毎の湛水ストレスの度合いを明らかにした。2007年秋に最大瞬間風速60メートル超の大型台風が本研究のフィールドである西表島を直撃した影響で、2008年のマングローブ樹木の種子散布量が乏しくなった。そのため栽培実験を実施するのに十分な量の種子を採取することが出来なかった。そこで研究計画を変更し、栽培実験の規模を予備実験レベルに縮小すると同時に、研究作業の重心を無気呼吸関連遺伝子群及びエチレン合成関連遺伝子群のクローニング作業に置いた。その結果、ゲノム情報が殆ど無い複数のマングローブ樹種より、湛水ストレスに暴露された際の無気呼吸関連遺伝子群及びエチレン合成関連遺伝子群の一部の核酸配列をクローニングすることが出来た。
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