研究概要 |
植物の世界では、近交弱勢を引き起こす可能性のある近親交配、特に自殖を避けるための様々な繁殖様式がある。中でも雌雄の性機能を個体レベルで分業する雌雄異株は、他殖だけで種子が生産されるシステムである。本研究では、奈良県春日山原始林において、雌雄異株植物であり、かつ性転換することで知られるカエデ科のウリハダカエデの個体群の空間的遺伝構造、送粉による遺伝子流動、種子の両親間の血縁度を調べ、二親性近親交配の程度を評価した。さらに、稀に見られるウリハダカエデの両性個体における自殖率を調べ、雌雄異株という繁殖システムが自殖に伴う近親交配を避ける有効なシステムであるかを考察した。 本研究では林内に設置された永久調査区において、胸高直径(DBH)約10cm以上のウリハダカエデ129個体を対象とした。開花調査による性の判別、雌木からの種子の採取、マイクロサテライト12遺伝子座について親木と種子の遺伝子型を決定を行った。 雄花をつけた個体は78個体、雌花をつけた個体は40個体で性比は有意に雄に偏っていた。両性個体は3個体見つかった。親木間の空間距離とペアワイズ近交係数Fijの関係から、空間的遺伝構造は有意であり、近距離個体間の血縁度が高かった。父性解析の結果、花粉親と種子親の距離が100m以内なのが75%近くを占めており、近距離での交配の頻度が多かった。種子の両親間の血縁度Fijの平均値は、ランダム交配下での期待値よりも有意に高かった(P < 0,05)。種子の両親の血縁度は距離が近いものほど高く、送粉は主に近隣個体間で行われていたことから、二親性の近親交配が起きていることが示唆された。また両性個体の自殖率は高く、雌雄異株というシステムが近親交配を避けるために有効であることが示された
|