ササの一斉開花枯死現象については、その交配様式に疑問が多く他殖率を明らかにすることがまず第一歩となる。昨年度の研究では、札幌近郊で部分開花したオクヤマザサを用いて新たに開発されたマイクロサテライト遺伝子座を調べた結果、自殖性が高いことを明らかにした。本年度は、自然状態で自殖性が高く、かつ多様性の高いオクヤマザサの集団について、より詳細な交配様式について研究を行った。オクヤマザサの交配様式をより詳細に調べるために、種子を稈別に採取して分析を行った。昨年度同様に、採取した種子の休眠打破を行い、マイクロサテライト11座について遺伝子型を決定し、他殖率の推定を行った。オクヤマザサの部分開花では、限られた個体由来のラメットが同時に開花するために自殖性が高くなっている。ほとんどの稈では完全に自殖していたが、数本の稈で他殖が確認された。これらの稈における他殖率は0.3-0.4と自殖性の植物としてはかなり高い値を示した。また、他殖している稈から採取した種子の中には母稈由来の遺伝子が欠落しているものが見られた。これについては、イネ科で見られるパラミューテーション現象、花粉の遺伝子によるゲノムキャプチャー、突然変異による対立遺伝子の欠落等さまざまな可能性が考えられる。今までにイネ科ではこのような現象については報告が少ないため、詳細なメカニズムについては更に検討する必要があろう。自殖性が高い自然集団で、他殖を行う稈に特有の変異を維持するメカニズムが存在するとすれば、オクヤマザサをはじめとするササ属が、開花が稀であるのに高い遺伝的多様性を維持している根拠を説明できる可能性が高い。
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