平成20年度内には、大きく3項目の実験を実施した。第一に、道管相互壁孔の季節的な閉塞が広葉樹(木本の被子植物)のなかでどれだけ広く美通する現象なのかを明らかにするため、モクレン群から真正キク綱2群にわたる被子植物の広範な分類群から計12種を選び、休眠期に採取された辺材外層の試料を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果、トネリコ属(モクセイ科)で見られる季節的な道管閉塞は、今回調べた12種のいずれにも認められなかった。この季節的な現象は、かなり限られた分類群にだけ生じるものである可能性が強い。第二に、マイクロインジェクション法による道管相互間の壁孔壁の透水度の測定を行うための準備と予備実験を行った。現在のところ、本実験の実行に不可欠の先端径が数10〜100Fmのガラス管を再現性よく作製することが難しく、たとえガラス管をうまく作製できても道管に挿入した後に流体漏洩を防ぐ処理もまた再現性よく行うのが難しいなど、計測以前に克服すべき実験手技上の問題がある。この方法を考案したハーバード大学のグループに尋ねたところ、この実験に最も必要なことはpatienceとのことであったので、まずはこれまで以上に時間を費やして手技を習得したい。第三に、壁孔閉塞物の化学的性状を予備的に調べた。この実験は、計画では21年度に実施する予定であったが、前倒しで着手した。その結果、壁孔閉塞物は極性の有無に拘わらず有機溶媒にはまったく溶解しないこと、弱酸で除去されること、紫外線吸収を示さないことなどが明らかになった。これまでほとんど研究例がなく、化学成分や生理機能がまったく不明であった道管相互壁孔の季節的閉塞現象について、少しずつ実体が明らかになりつつある。
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