平成21年度は、季節的な壁孔堆積物がどのような植物群で見られるのか(以下、系統発生学的検討)、およびマイクロインジェクションによる透水度の測定の2項目の実験を前年度からの継続としてまずは重点的に研究を進めた。これらに加えて、新たにトネリコ属をモデルとして壁孔閉塞物の季節的な堆積過程について着手した。系統発生学的検討では、前年度の12種に加え、さらに10種について新たにSEM観察を行った。その結果、心材部や傷害による変色材部において通水機能を失った通水組織間壁孔でよく見られる永久的な堆積物は多くの樹種で見られたが、季節的な堆積物はトネリコ属のほかに新たに認められなかった。これまで原始的被子植物からキク群まで広範な植物群を対象としていたが、今後はモクセイ科を重点的に調べる必要がある。マイクロインジェクション法による道管相互間の壁孔壁の透水度の測定では、測定に適した毛管をコンスタントに作製するのが難しく、その後の実験操作においても手技上の困難な問題があり、依然として十分なデータが得られなかった。実験過程の諸段階を改めて見直すとともに、単一組織レベルでの測定とともに、その集合体として小材片レベルの計測も検討したい。新たに着手したトネリコ属をモデルとした季節的な堆積過程の検討では、堆積の開始から完了まで1ヶ月を要すること、孔圏道管と孔圏外道管では堆積のタイミングに半月程度のズレがあることなどの新知見が得られた。
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