トネリコ属の代表的樹木であるヤチダモをモデルとして、道管相互壁孔および道管・柔細胞間壁孔への季節的な壁孔閉塞物の化学的性質について検討を進めるとともに、同閉塞物の堆積過程並びに消失過程について詳細に検討した。化学的性質に関しては、熱水などによるペクチン抽出処理および有機溶媒処理では変化が認められなかったが、アルカリ処理により完全に除去された。しかし、この結果に基づき酵素を使ったヘミセルロースの選択的な抽出処理を試みたが、除去されなかった。これらの結果から、広葉樹材の細胞壁に普遍的に見られる一般的な多糖類ではないことは明らかである。堆積過程に関しては、北海道大学構内の研究林実験苗畑の生立木から定期的に試料を採取して堆積過程を検討した。その結果、当年に形成された木部の早材部では10月初めに堆積が始まり、10月末には堆積が完了した。これに対して、当年に形成された木部の晩材部では、10月の半ば過ぎに堆積が始まり、11月の半ばまで堆積が継続した。一方、壁孔閉塞物の消失過程に関しても、早晩材間で挙動に違いが認められた。晩材部の小道管では、5月初旬の開芽・開葉の頃、10日間以内の短期のうちに完全に消失した。これに対して、早材部の大道管では消失が起こらず、堆積物が永久的に残存することが明らかになった。また、秋期の堆積途上に限ってカルシウムを含む菱形結晶が頻出すること、堆積の初期段階では壁孔壁のセルロースミクロフィブリルに明瞭な緩みが見られることなど、閉塞物が壁孔壁内へ挿入的に沈着する独特のメカニズムがあることを示唆する状態が高分解能走査電子顕微鏡観察により明瞭に示された。
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