ヒカゲシビレタケ菌糸体の各種生理学的特徴が明らかとなった。また、ヒカゲシビレタケが抗強迫性障害の治療へ有用であることを示し、その作用機序の一端と共に脳内モノアミンの挙動へ与える影響を明らかとした。これらの結果は、催幻覚性きのこの基礎研究および強迫性障害をはじめとした神経系疾患治療の研究へ広く貢献するものと考える。 特に本研究のポイントは、シロシンやシロシビンを効率的に産生するヒカゲシビレタケ菌糸体の培養法と保存法を確立したこと。ヒカゲシビレタケからの抽出物を0.1g-1g/kgの用量で投与することで自発運動量へ大きな影響を与えずに疾患改善作用を評価するマウスのガラス玉覆い隠し行動を有意に抑制し、その効果は医薬品のFluvoxamineと同等以上であったこと。ヒカゲシビレタケの玉覆い隠し行動抑制作用は、5-HT1A、5-HT2A/2C受容体亢進の作用によることを明確にしたこと。ヒカゲシビレタケ抽出物は、投与後脳内モノアミン含有量を一時的に減少させるが、投与12時間後までに回復することを明らかにしたこと。その作用は、催幻覚性きのこによる肉体的、身体的症状の持続時間と類似していることも毒性学や今後の薬剤開発における催幻覚性きのこの利活用のための基盤となるデータを構築したことである。 またヒカゲシビレタケ抽出物は、大脳辺縁系のみならず、脳の多くの部位で5-HIAA含有量を低下させセロトニン代謝回転を抑制したが、各種受容体拮抗剤は、それぞれ脳内の各部位において5-HTの代謝回転阻害を抑制した結果から、ヒカゲーシビレタケ抽出物の玉覆い隠し行動抑制効果の減少は、5-HT代謝回転の低下が一つの要因であり、ヒカゲシビレタケの抗強迫性障害効果へ寄与しているものと多くの試験結果から結論付けた。 これらの成果は、天然物であるヒカゲシビレタケの菌糸体から産生する成分を有効的に抽出し、二次的害作用や薬物依存性の無い疾患改善薬を設計するため応用研究のための基盤に欠かせない成果を導き出しているものである。
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