研究概要 |
ブナシメジ廃菌床に含まれるヤマトシロアリの幼形生殖虫(女王と王とは異なり幼形形質をとどめたまま産卵能をもつようになった個体)への分化ならびに幼形生殖虫による産卵を促進する物質の候補として,ヒドロキシシナピン酸とアラビノキシロビオースのエステルを分離・同定した。北海道立林産試験場より提供されたエノキタケ,マイタケ,ブナシメジの廃菌床ならびに廃菌床の水,熱水,50%エタノール,エタノール抽出物を添加したろ紙でヤマトシロアリを飼育し,各廃菌床の50%エタノール抽出物にヤマトシロアリの幼形生殖虫による産卵促進活性があることを見出した。これら3種類のきのこ廃菌床の50%エタノール抽出物を液クロ(HPLC)で分析し,共通する成分の単離を試みたが,共通成分は存在していないことがわかった。シロアリの階級分化で主要な働きをする幼若ホルモンの運搬や保護に深くかかわる幼若ホルモン結合蛋白質の1つであるヘキサメリン遺伝子を対象としたRNA干渉をヤマトシロアリの職蟻とニンフに対して行った。職蟻では兵蟻への分化の促進などは起こらなかったが,ニンフではRNA干渉でヘキサメリンの発現を抑制した個体で幼形生殖虫への分化が促進されることが明らかになった。幼形生殖虫への分化が促進されることは産卵能をもつ個体数の増加を意味しており,シロアリ養殖に重要なシロアリの個体数を増やすための方法が1つ新たに確立されたことになる。またRNA干渉の副産的技術として,シロアリの共生原生生物の遺伝子を標的としたsiRNAにより共生原生生物を破裂させることに成功した。この技術はシロアリ特異的であり人畜に安全なシロアリ駆除技術へと発展する可能性がある。
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