研究概要 |
シロアリの変態は,主に幼若ホルモン(JH : juvenile hormone)と前胸腺ホルモン(エクダイソン)により制御されている。このJHの保護・運搬に係るJH結合タンパク質として,ヘキサメリン,ヴィテロジェニンおよびリポフォリンが知られている。これらJH結合タンパク質の発現量を抑制することでシロアリの分化を制御できる可能性があり,本研究ではこれらタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列の解析ならびにRNA干渉実験によるシロアリ体内での発現量の抑制を行った。先ず,昨年度までに解読したヘキサメリン遺伝子(AB371986)の塩基配列をもとに,ヘキサメリンタンパク質の抑制を目的としたRNA干渉実験を行った。またヴィテロジェニン遺伝子に関して,昨年度に解明した部分配列(131塩基)をもとに3'-RACE,5'-RACE法による解析を行い,3'側の塩基配列を解読した。しかし,5'-側の配列(AB520715)は富山大学の前川等により既にDDBJに登録された。また,リポフォリンのdegenerate PCRを行ったが,これまでのところ他の昆虫のリポフォリンと相同性の高い配列は得られていない。上述のヘキサメリンを標的としたRNA干渉実験では,ヤマトシロアリへのdsRNA(二本鎖RNA)の注入1~2日後に,ヘキサメリン遺伝子の発現量の低下が起こった。約1週間後の段階では,シロアリの脂肪体などヘキサメリン遺伝子の発現量の増加が認められる部位もあった。このRNA干渉実験時に,職蟻から兵蟻あるいは職蟻型幼形生殖虫(エルガトイド)への分化促進は観察されなかった。一方,ニンフでは産卵能力をもつニンフ型幼形生殖虫(ニンフォイド)への分化が促進された。ヘキサメリンをRNA干渉により抑制することで,ニンフのニンフォイドへの分化を促進し,新たに出現したニンフォイドによる産卵を誘導できる可能性が見出された。
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