研究概要 |
貴重な文化財や金属材料を激しく劣化させる有機酸に関する研究は、有機酸の迅速な捕集方法や精密な分析方法がなく、木材や木質材料の有機酸放散メカニズムの解明が難しいのが現状である。そこで、本研究では、木材及び木質ボードから放散される有機酸を迅速かつ高精度に測定し、木材構成成分や接着剤の化学構造と有機酸放散速度との関係から、有機酸の放散機構を解明することを目的とした。 本年度は、昨年度に試作した低濃度ガスを発生できる標準ガス発生装置を用いて,小形チャンバー法における酢酸およびギ酸の回収率を求めて測定精度について検討した。その結果,ステンレス製のチャンバーでは酢酸およびギ酸とステンレスが反応しているため回収率が低いが,ガラス製のチャンバーでは高い回収率を示すことがわかった。 また,木材から放散される有機酸の発生メカニズムを調べるため,熱処理したスギ(Cryptomeria japonica)心材の有機酸発生量と木材の化学成分との関係について検討した。その結果,木材中の酢酸は160℃の加熱では有意な増加はなく,220℃の加熱によって大きく増加した。ギ酸は160℃の加熱では増加せず,220℃の加熱で減少した。これらの結果から加熱による酢酸およびギ酸の生成はそれぞれ160℃以上および160℃以下の温度領域で起こることが推定される。一方,熱処理したスギ心材の成分分析をしたところ220℃の加熱でホロセルロースが減少し,リグニンが増加したことから,木材成分と有機酸生成との間に何らかの関係があることが示唆された。これらの木材成分がオゾンなどの酸性ガスによって有機酸に酸化されるメカニズムを検討するため,オゾン発生装置を試作した。
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