研究概要 |
産業上重要なアカガレイの卓越年級群発生機構の解明と,その発生予測技術を開発するために,対馬暖流系の水塊と親潮系水が交互に流入する北海道噴火湾において,北海道大学水産学部附属練習船うしお丸を用いてアカガレイ仔魚のプランクトンネット採集と海洋環境調査を実施した。孵化直後の仔魚の耳石孵化輪は,2003年に発生した卓越年級群が産卵群に加わって成魚群が若齢・小型化した2009年に急激に小型化した。2007-2009年級群の仔魚のラピラス耳石日周輪は,産卵終期が近づくにつれて幅が広くなり,高齢仔魚ほど高い成長率を示し,孵化直後から継続的に成長の速い個体ほど生残しやすい傾向が認められた。また2007-2011年級群の孵化直後仔魚の採集前3日間平均輪紋幅は,成魚豊度と仔魚密度から推定した加入成功指数ln(RPS)が高い年に広かった。しかし,卵密度と仔魚密度から推定した短期的な全減少係数Zとは明瞭な関係を示さなかった。孵化直後仔魚の採集前3日間輪紋幅は,風速との間に傾きの小さい正の回帰関係を示したが,ノープリウス密度や水温,全天日射量とは明瞭な関係は示さなかったことから,環境変化に伴う短期的な成長率の変動はごくわずかであり,累積的な成長率の変化が生残率の差となって表れるものと推定された。一方,産卵親魚も比較的高齢で仔魚も高い水温を経験した2007年級群は,孵化直後に限定しても最も高い成長率を示したが,卓越年級群にはならなかった。むしろ孵化直後の輪紋幅は5年間で最も狭かった2008年級群がその後卓越年級群となった。以上の結果から,浮遊仔魚期には成長率選択的な生残が存在するが環境変化の影響は顕著ではなく,卓越年級群の発生は浮遊期以後の生残過程によって規定されていることが推定された。
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