本研究では、これまでほとんど未解明であった、魚類の卵母細胞における脂質取り込み機構を明らかにすることを目的とし、サケ科魚類のカットスロートトラウトをモデルに用い、分子生物学・生化学的手法により様々な解析を行った。 先ず、卵母細胞への脂質の供給源と考えられるリポタンパク質の代謝に関わる主要な酵素である、リポタンパクリパーゼ(LPL)ファミリー遺伝子のクローニングと卵巣での発現解析を行った。カットスロートトラウト卵巣からLPLファミリーのcDNAクローニングを試みた結果、2種のLPLcDNA(LPI」1、LP正2)と2種のエンドセリアルリパーゼcDNA(EL : EL1、EL2)が得られた。これらのうち、LPLIについて種々の発現解析を行った。先ずLPU mRNA発現量の定量的RT-PCR法(q-PCR)を確立し、様々な体組織におけるLPL1 mRNAの発現局在性を調べたところ、同遺伝子の発現は脂肪組織で顕著に高く、他に脳、筋肉、卵巣でも確認された。このことからLPL1が脂肪蓄積に重要な役割を担っていることが支持された。次に卵濾胞組織における発現部位をq-PCRとin situハイブリダイゼーション法により解析した結果、LPL1 mRNAは主に顆粒膜細胞で発現していることが明らかとなった。さらに卵形成過程に伴う卵巣での発現変化を調べたところ、LPL1 mRNAの発現量は油球形成(脂質蓄積)が活発になる4月に急増してピークを示した。これらの結果から、サケ科魚類の卵巣において、LPL1は主に顆粒膜細胞で発現しており、同細胞でリポタンパク質の代謝を行うことで、卵母細胞への脂質取り込みに重要な役割を担っていることが示唆された。
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