本研究は、サケ科魚類のカットスロートトラウトをモデルに用い、魚類の卵母細胞における脂質取り込み機構を明らかにすることを目的としており、本年度は以下の項目について解析した。 1.リポタンパクリパーゼ(LPL)ファミリー遺伝子のクローニングと発現解析:昨年度クローニングした2種のLPL cDNA(LPL1、LPL2)と2種のエンドセリアルリパーゼ(EL)cDNA(EL1、EL2)のうち、LPL1以外の3種について卵巣での発現解析を行った。その結果、LPL2は、LPL1と同様に油球期の卵巣で高く発現しており、また卵濾胞組織での主な発現部位は顆粒膜細胞であることから、LPLが顆粒膜細胞にてリポタンパクの代謝を行うことで卵母細胞への脂質取り込み機構に関与していることが示唆された。また、ELは2種とも卵黄形成の開始期に発現ピークを示し、かつ卵濾胞組織での主な発現部位は卵母細胞であったことから、ELは卵母細胞での卵黄タンパクの代謝に関与していることが示唆された。 2.リポタンパク受容体遺伝子のクローニングと発現解析:低密度リポタンパク受容体(LDLR)と超低密度リポタンパク・ビテロジェニン受容体(VLDL/VTGR)のcDNAクローニングを行い、卵巣での発現を解析したところ、双方とも油球期に高い発現を示すとともに、卵濾胞組織での主な発現部位は卵母細胞であることが分かった。これらの結果から、脂質供給源としてのリポタンパクが、受容体を介して卵母細胞内へ取り込まれる経路の存在が示唆された。 3.アポリポタンパクの特異抗体作製:VLDLやLDLの構成アポタンパクであると予想されるアポEとアポBについて、それぞれの部分cDNA配列を得たのち、大腸菌発現系を用いて組み換えタンパクを合成し、それらを抗原として特異抗体を作製した。これにより、各リポタンパクの動態などを詳細に解析することが可能となった。
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