近年、海産魚に異常遊泳をもたらす脳寄生虫病が増加している。本研究では、寄生虫による宿主の行動操作という観点から、宿主操作の実態とメカニズムを解明することを目的とする。 1. 吸虫Galactosomum sp.と粘液胞子虫Kudoa yasunagaiの実態調査:長崎県内のトラフグ種苗生産場において寄生状況を調査した結果、種苗生産場AではGalactosomum sp.の寄生率が6.2%で、8月中旬に旋回症状がみられた。種苗生産場BではK. yasunagaiが7月中旬より3~27%の率で検出された。長崎県内の養殖クロマグロ(0歳)からもK. yasunagaiか検出されたが、検出率が極めて低く病害性ははっきりしなかった。9月上旬、香川県海、域内のカタクチイワシに旋回症状が確認され、脳内からGalactosomum sp.が検出された。旋回行動は夜明け直後(午前6時前後)に集中して起こることが分かり、この現象は終宿主である水鳥の捕食時間と一致した。同海域で他の天然魚を調査した結果、マダイには3.8%の率で検出された(旋回行動は未確認)が、シマイサキ、マアジ、スズキからは検出されなかった。なお、これは瀬戸内海で初めての吸虫性旋回病発見例である。 2. 発病メカニズムの解析:Galactosomum sp.の寄生により 旋回症状を呈したトラフグ稚魚の脳の病理組織学的検査を行った結果、メタセルカリアが間脳に寄生していることが確認された。そこでキンギョを実験魚として脳外科手術を行い、ガラスビーズを間脳に挿入したところ、旋回症状が再現された魚もあったが、手術の成否によって結果にばらつきがみられた。今後は脳外科手術の精度を高めることとともに、実際にメタセルカリアを海産魚に挿入する実験を試みる必要がある。
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