1.ICP-AESによる耳石微量元素組成の地理的変異:北海道から九州まで、さらに本州東方沖合移行域を含めて計13海域で採集されたカタクチイワシ成魚耳石を用いて、Mn、Fe、Mg、Sr、Ba、Naの6元素の対Ca重量比を求めた。判別関数分析の結果、正判別率は56.9%となった。海域ごとにある程度のクラスターを形成し、誤判別となったサブサンプルの多くは地理的に比較的近い海域間で生じた。各海域の個体鮮である程度まとまりつつも、生息海域の重複があることが示された。正準得点のMnで特徴づけられる軸は採集点の沿岸-沖合方向の配置と一致し、Srで特徴つけられる軸はおよそ南北方向と一致した。 2.IA-ICP-MSによる生活史を通した耳石微墨元素:レーザー照射型の耳石微量元素分析により個体の生活段階ごとに分析した。移行域と三陸から熊野などまでの計10海域において採集されたカタクチイワシについて耳石中のLi、Na、Mg、K、Mn、Sr、Ba、Caのイオンカウント数を測定し、各元素の対Ca mol比を算出した。レーザーを照射するスポットは、核から縁辺に向け各個体につき計6スポットとした。スポット内海域間での判別分析の正判別率は、SP0で50.0%、LP1で70.0%、LP2で72.5%、LP3で75.0%、LP4で82.6%、LP5で100.0%となり、体長が大きくなるにつれて正判別率が高くなった。SP0内およびLP1内での海域間誤判別は様々な海域に及び、最も離れた移行域B-熊野灘間でも生じたことから、生活史初期においては、サンプル全体での交流が存在する。しかし、スポット0で50.0%という正判別率を示したことと、発達と共に判別率が上昇したことから、発生時からある程度の空間的まとまりをもって成長していくと考えられる。
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