研究概要 |
本研究は、絶滅危惧種でありながら食用として利用されているヤシガニの遺伝的多様性の保全に配慮した増養殖技術(ヤシガニ牧場)を確立する基礎として、幼生の行動特性の解明に基づいた種苗生産技術を開発するとともに,琉球列島における遺伝的集団構造の解明を目指している。本年度の成果は以下の通りである。 1.ゾエア幼生の飼育技術:光周期(0、6、12、18、24時間照明)がゾエア幼生の生残と発育に及ぼす影響を調査した結果、生残率と発育は12~18時間照明で高く、飼育に最適な光周期が明らかとなった。 2.メガロパ幼生以降の飼育技術:ヤシガニはメガロパ以降に上陸する。メガロパが貝殻に入り歩行可能になった段階で上陸させた場合と変態当日に自主的に上陸可能にした場合の生残と上陸状況を比較した。また、これまで明らかになった適正な飼育条件下(高湿度、基盤有)で、20~100尾のメガロバを大量飼育した。その結果、貝殻に入り歩行可能になった個体の生残率が安定する傾向があった。また、大量飼育した個体の半年後の生残率は30~40%程度であり、ヤシガニ稚ガニの大量飼育技術の確立に向けた足がかりが得られた。 3.遺伝的変異性と遺伝的集団構造:与論島、沖縄本島、北大東島、宮古島、石垣島、鳩間島、与那国島、グアム、パラオ、インドネシアから入手したヤシガニの筋肉サンプルを用い、ミトコンドリアDNAのCOI領域(397bp)と16S RNA領域(341bp)の塩基配列を決定し、集団遺伝学的解析を行った。その結果、遺伝的変異性は比較的高く、遺伝的分化の程度は低いことが判明した。 以上の成果により、ヤシガニの種苗生産技術の確立に向けた幼生の適正飼育条件が解明されるとともに、遺伝的管理単位に関する知見が得られた。
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