本年度の主要な研究成果は以下の通りである。 1.卵の人工培養方法について検討した結果、25~40‰の人工海水中で正常に発生が進行することが分かった。また、温度別に卵を培養し、発眼までの日数から「内的な発育最適温度」を推定した。これによって適正な卵発生温度が明らかとなった。 2.光周期(0、6、12、18、24時間照明)がゾエア幼生の生残と発育に及ぼす影響を個別飼育法によって調査した結果、生残率と発育は12~18時間照明で高く、飼育に最適な光周期が明らかとなった。 3.メガロパの着底までの行動の変化を詳細に観察した結果、変態後4日目以降に貝殻に入って歩行する時間が増加することが分かった。また、遊泳および歩行のリズムから、接岸に選択的潮汐移動を利用している可能性が考えられた。さらには、これまでに明らかになった適正な飼育条件下(高湿度、基盤有)で、200尾のメガロパを大量飼育した結果、2カ月後の生残率は30%程度まで低下したが、その後半年間の生残率は70%程度で高く推移し、ヤシガニ稚ガニの大量飼育が可能になった。 4.与論島(15尾)、沖縄本島(5尾)、北大東島(9尾)、宮古島(12尾)、石垣島(32尾)、鳩間島(41尾)、与那国島(24尾)、グアム(7尾)、パラオ(4尾)、インドネシア(5尾)から採集したヤシガニの筋肉サンプルを用い、ミトコンドリアDNAのCOI領域の塩基配列に基づき、集団遺伝学的解析を行った。その結果、集団独自のハプロタイプがグループを形成することはなく、遺伝的分化の程度は低いことが判明した。さらには、将来的な野外調査のために、ヤシガニを含むオカヤドカリ科7種の種判別手法について検討した結果、ITS領域のPCR-RFLP分析によって判別可能なことが明らかとなった。
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