研究概要 |
わが国では,平成18年5月にポジティブリスト制が導入されて以降,生産者の意図しない農薬の残留リスクをどのようにモニタリングするかが重要な課題となっている。本年度は,魚類の農薬曝露に対する生物学的反応を利用した,安価で簡便な農薬類曝露履歴監視システムの構築を目指し,養殖対象魚種であるティラピア(Oreochromis niloticus)を用いて,農薬曝露によるMDR1(multidrug resistance)遺伝子の発現誘導をmRNAレベルおよびタンパク質レベルの両方から解析し,薬物動態との関連を調べた。 その結果,有機リン系農薬マラチオンの曝露では,MDR1の有意な発現誘導は見られなかった。ティラピアではマラチオンの消失が早く,素早く代謝され排出されてしまうことから,MDR1は少なくともマラチオンの曝露履歴のマーカーにはならず,新たにマーカー遺伝子を探索し直す必要性が生じた。一方,有機塩素系農薬エンドスルファンの曝露により,MDR1遺伝子の発現は,可食部である筋肉においてmRNAレベルおよびタンパク質レベルの両方で用量依存的に亢進がみられ,特にタンパク質量は,代謝物であるエンドスルファンスルフェートの体内濃度と高い相関を示した。このことから,MDR1タンパク質は,魚体内の有機塩素系農薬の残留をモニタリングする上でのバイオマーカーとなりうる可能性が示唆された。また,本研究では,現在残留規制されていないエンドスルファンスルフェートの残留が,親化合物であるエンドスルファンよりも長いことも明らかとなった。エンドスルファンスルフェートの毒性評価に関する報告は極めて少なく,今後危険性が明らかになった場合,本研究でのモニタリング手法が重要となってくる。
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