研究概要 |
魚類:21年度では,湾奥部東に位置する矢部川河口域および30年前の諌早湾本明川河口域での調査結果を加えて魚類再生産の多様性に関して検討した.まず,スズキ仔稚魚は,近年,六角川・早津江川では極めて減少したにも関わらず,濁度の低い矢部川では多く出現した.これは,湾口からの流れが弱まり,スズキ仔魚を最奥部まで輸送しなくなったことを示唆している.一方,30年前の本明川では,仔稚魚群集の組成は,現在の六角川・早津江川のそれらと,極めて類似しており,かって,そこには特産種の一大成育場が形成されていたことが明らかになった.しかしながら,出現する発育段階に多少の差がみられる上,六角川・早津江川ではほとんど生息しない魚種も多数出現しており,矢部川の結果と考え合わせると,魚類成育場の様式は,河川間で多少相違しており,有明海全体の多様性が窺われた. 動物プランクトン:2009年3月に有明海全域にわたる22定点にて,カイアシ類の定量採集を行った.最優占種は,強内湾種であるOithona davisaeで,次いで春季本邦温帯域沿岸に広く分布するAcartia omorii,が優占した.PRIMERを使いた群集解析を行った結果,湾内のカイアシ類群集はO. davisaeとCalanus sinicusの密度で大きく2つのグループに分かれ,それぞれO. davisaeの密度に依存する2つのサブグループに分かれた.両グループ間で最も違いがあった環境要因は濁度であった.両グループ間は水深20mの等深線で分かれ,深さがプランクトン群集と相関することが示された.以上の結果から,有明海のカイアシ類プランクトン群集の鍵種は富栄養域の指標種でもあるO. davisaeであり,2009年春季の海況は本種が優占する湾奥から諫早湾および湾中央部東側の20m以浅域に,富栄養種にとって好適な環境が大きく広がっていることを示唆している. 魚類遺伝多様性:河川個々に生活史を依存していると考えられる特産種ヤマノカミに注目し,その遺伝多様性を六角川と筑後川間で比較を行い,現在解析中である.
|