本研究は、干潟河口域におけるエイ類の分布特性と生物量および種組成の変遷を明らかにし、海洋温暖化により卓越するようになった種の行動生態を解明することを目的としたものである。本年度の研究成果は以下の通りであった。(1)有明海において、種々の伝統漁法を利用したエイ類の採集調査を継続した。漁獲物の種同定・計測・解析等を行った結果、アカエイ、シロエイ、ナルトビエイ、トビエイ、ウチワザメ、コモンサカタザメ等が優占することがわかった。これらエイ類の全魚類に対する構成比は、過去に比べて増加した可能性がある。(2)東アジア河口域生態系におけるエイ類の分布状況とその変遷を明らかにするため、これまでほとんど調査されたことがなかった中国の海南島沿岸域でエイ類の採集調査を行った。中国沿岸海域ではトビエイ亜目の種多様性が高く、同定の困難な種も多く出現したことから、文献を収集して検討を重ねるとともに、mtDNAを用いた種判別を行った。その結果、日本側には出現していないオナガエイおよびアカエイ属の一種または数種が生息すること、中国沿岸の南部海域ではズグエイが優占することなどが明らかになった。(3)平成21年度の春季は、例年よりも水温の低い期間が長く続いたことにより、ナルトビエイの有明海への来遊が遅れたものと思われた。また、夏季に有明海で採集されたナルトビエイは例年よりも少なく、ナルトビエイによる二枚貝への甚大な食害被害は報告されなかった。これらのことから、夏季の水温が高いことよりも、河口域への移動時期(春先)の水温変動が、ナルトビエイの干潟河口域(有明海)への移入を決定づける可能性があるものと考えられた。
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