研究概要 |
貧栄養外洋における重要な窒素導入者と目されている単細胞窒素固定ラン藻の窒素固定細胞の動態把握を、独自に開発した窒素固定酵素抗体を用いた免疫細胞学的検出法を適用し解明することを最終目的に、日本近海の典型的な外洋貧栄養海域である黒潮由来の海水を用いて以下の結果を得た。 1.細胞免疫学的検出法をフィールド試料に適用するための改良を行い(1)メンブランフィルター上に粒子分画を捕集し冷エタノール浸漬、-30℃保存により、作業時間短縮・遠心機不使用が可能となった。(2)微小(>2μm)細胞の免疫反応の可視化には蛍光物質標識二次抗体が有効であった。緑色蛍光発光物質を用いることでR型フィコエリトリン保持細胞以外の自家蛍光妨害を避けられた。 2.免疫反応ポジティブコントロールに用いるリブロース1,5-2リン酸カルボキシラーゼ(ルビスコ)抗体を、同遺伝子導入組換大腸菌に発現させたタンパク質を用いて作成した。抗体はラン藻だけでなく、真核藻類・光合成細菌のルビスコも認識した。 3.1で開発した方法を、2007年夏期に黒潮水から得た糸状体窒素固定ラン藻トリコデスミウムに適用し、約60〜80%の細胞が窒素固定酵素を発現していることを示した。 4.3に用いた海水粒子分画からDNAを抽出し、窒素固定酵素の鉄タンパク質遺伝子を標的にしたPCR産物の塩基配列解析を行い、糸状体・単細胞窒素固定ラン藻とともに、α-、β-プロテオバクテリア由来窒素固定酵素遺伝子を検出した。 4.2008年8月に愛媛県南宇和郡内海湾に流入した黒潮海水に1で開発した方法を適用した固定試料の作成、DNA分析用海水粒子分画採取を行った。試水中には細胞径が2〜5μmの単細胞ラン藻が、1ml当たり0.5〜1.5×10^3細胞存在した。分析は進行中。 5.4で得た試水中から、複数のラン藻を分離した。単細胞分離株は16SrRNA遺伝子塩基配列解析から窒素固定ラン藻Gloeothece属に近縁であることが示された。
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