研究概要 |
貧栄養外洋における重要な窒素導入者と目されている単細胞窒素固定ラン藻の窒素固定細胞の日本近海の黒潮における動態把握を解明することを最終目的に以下の結果を得た。 1, 2008年に愛媛県宇和郡下波湾に流入した黒潮水から得た糸状窒素固定ラン藻に細胞免疫学的検出法を適用した結果をJ. Oceanograph誌(vol65 p. 427-32)に発表した。 2, 2009年9月27日、愛媛県愛南町内海の沿岸および沖の異なった深度から採水を行い、一部はグルタルアルデヒドで試料中生物を固定し、一部は粒子分画をフィルター上に捕集し3以下の実験に供した。採水試料中の生物相、採取地点近傍で測定された水温時系列データ(愛媛大学沿岸科学研究センター提供データ)から採取時点に黒潮水が流入していたことと考えられた。 3, 2で得た海水試料中には、細胞径が、0.5~2μm程度の単細胞ラン藻が1mlあたり1~5×104細胞程度含まれていた。しかし、窒素固定酵素抗体を用いた免疫細胞学的手法による窒素固定酵素を発現し4, 2で得た海水粒子分画から抽出したDNAを鋳型に、16SrRNAまたは窒素固定酵素遺伝子特異プライマーを用いて両遺伝子をPCR増幅し、増幅産物のクローンライブラリーを作成、主要クローンの部分塩基配列決定と解析を行った。窒素固定酵素遺伝子は、糸状体ラン藻種由来のもので、単細胞窒素固定ラン藻由来配列は検出されなかった。16SrRNA遺伝子解析では、単細胞ラン藻として非窒素固定種であるSynechococcusに近縁な配列が得られたことから、海水試料中で観察された単細胞ラン藻は非窒素固定種で、そのため窒素固定酵素発現細胞が検出されなかったと考えられた。 以上の結果から、少なくとも今回得た黒潮水中では、糸状体ラン藻が窒素固定を行っている可能性が高く、単細胞窒素固定ラン藻の寄与は小さいと考えられた。
|