研究概要 |
貧栄養外洋における重要な窒素導入者と目されている単細胞窒素固定ラン藻の窒素固定細胞の動態把握を,独自に開発した窒素固定酵素交代を用いた免疫細胞学的検出法を適用することを最終目的に,日本近海の典型的な外洋貧栄養海域である黒潮由来の海水を用いて以下の結果を得た。 1.2008,9年に愛媛県宇和島湾および宮城県沖から得た黒潮水の粒子分画から抽出したDNAを鋳型に,16srDNAと窒素固定酵素鉄タンパク質をコードする遺伝子(nifH)特異プライマーを用いてPCR増幅した産物の解析を試みたが,(1)いずれの海域でも単細胞ラン藻は非窒素固定種由来の遺伝子配列のみが検出された。(2)2009年に宇和島湾から得た試料からは,糸状体窒素固定ラン藻Trichodesmium近縁種と窒素固定細菌が検出されたが,単細胞窒素固定ラン藻由来の遺伝子配列は検出されなかった。 2.研究協力者である台湾の研究グループにより,免疫細胞学的検出法により,台湾近海黒潮海域では単細胞窒素固定ラン藻が検出された。また,同海域から,窒素固定ラン藻1株が分離され,系統解析および電子顕微鏡による形態観察から,貧栄養海域に普遍的に生息することが示唆されているCyanothece属ラン藻であることが明らかになった。窒素固定活性から,Cyanothece属ラン藻が分離海域における窒素固定量の約15%を固定していることが示唆された。結果は現在論文投稿中である。
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